研究業績(論文紹介)

Dysregulation of the Hippo pathway enhances PD-L2 transcription to promote cancer immune evasion. Ando T (corresponding author), Okamoto K, Sato K, Goto Y, Izumi H, Kataoka N, Ueda Y, Iglesias-Bartolome R, Yoshimoto T, Shintani T, Yanamoto S, Miyauchi M, Gutkind JS, Kajiya M. preprint, 2025.

がんは増殖能を高めるだけでなく、周囲の免疫細胞からの攻撃を逃れて増殖しています。これを免疫回避機構と言います。 免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞の免疫回避機構を阻害する薬剤として臨床で用いられています。口腔扁平上皮癌においてYAP/TAZは異常に活性化しており、増殖・薬剤耐性に重要なことは分かってきましたが、免疫回避に関連するかは未解明でした。

 本研究では、Hippo経路の不活性化に関連する遺伝子異常を有する患者が、免疫チェックポイント阻害薬に奏功しやすいことが分かりました。その一因として、YAP/TAZ活性化は分化の低下とゲノムの不安定性亢進を示し、結果的に遺伝子変異量(TMB)を増加させて、周囲に細胞障害性T細胞がリクルートされてきます。しかし、YAP/TAZ活性化は、BRD4と共にsuper enhancerの形成を介してPD-L2の発現量を増加させて、細胞障害性T細胞を不活性化し、免疫回避していることが明らかになりました。この機構が、結果的に免疫チェックポイント阻害薬への感受性を亢進させたと考えられます。

 今後、がん微小環境に対するYAP/TAZ活性化の影響を解明していくとともに、PD-L2やYAP/TAZを標的とした新たな創薬開発・治療法開発を進めていきます。

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YAP/TAZ interacts with RBM39 to confer resistance against indisulam. Ando T (corresponding author), Okamoto K, Ueda Y, Kataoka N, Shintani T, Yanamoto S, Miyauchi M, Kajiya M. Oncogenesis, 13(1):25, 2024

口腔扁平上皮癌においてYAP/TAZは活性化しており、 核内移行しています。しかしながら、核内においてYAP/TAZがどのような因子と相互作用しているか、その全貌はまだ解明されていません。本研究ではYAPの新たな核内相互作用因子を探索し、RBM39を同定しました。

 RBM39はRNA結合タンパクの一つであり、転写因子の転写活性を亢進し、またmRNAの正常なスプライシングを制御しています。Indisulamはアリルスルホンアミドの一つです。IndisulamはRBM39をユビキチンリガーゼに結合させて、分解させます。それゆえに異常なスプライシングが生じ、細胞死に至ります。しかし、臨床治験においては期待ほどの効果が得られず、耐性機構の解明が望まれていました。また、Indisulamは異常なスプライシングを引き起こすことでネオアンチゲンの産生も促し、免疫チェックポイント阻害薬の効果を向上させることも報告されています。将来的な応用が期待されていますが、やはり耐性機構を解明しない限り、免疫チェックポイント阻害薬との併用効果も限局的になってしまうと予想されます。

 本研究では、YAPがRBM39に結合し、1) YAP/TAZ標的遺伝子の転写を促すこと、2) indisulamによるRBM39の分解を妨げることを明らかにしました。YAP/TAZの活性化はintegrin/collagenの産生を促してFAKを活性化させ、また細胞周期やDNA代謝に重要な遺伝子の異常スプライシングも阻害できるため、indisulamへの耐性を付与することを解明しました。

 多くの固形がんでYAP/TAZの活性化が生じていることを考えると、Indisulamが治験で奏功しにくかった理由が分かります。したがってRBM39とYAP/TAZ相互作用を回避できるような新たな創薬の開発が今後の課題となります。

DOI: 10.1038/s41389-024-00527-0

AXL activates YAP through the EGFR–LATS1/2 axis and confers resistance to EGFR-targeted drugs in head and neck squamous cell carcinoma, Okamoto K, Ando T (corresponding author), Izumi H, Kobayashi SS, Shintani T, Gutkind JS, Yanamoto S, Miyauchi M, Kajiya M. Oncogene, 42:2869-2877, 2023.

受容体チロシンキナーゼのEGFRはYAPを活性化させますが、EGFR阻害薬の効果が限定的なのはなぜでしょうか。EGFR阻害薬に耐性を示す症例でYAPの再活性化が生じることから、別の受容体型チロシンキナーゼが関与していると考えました。データベース解析から新たにAXLを同定しました。AXLはEGFRとヘテロ二量体を形成し、EGFR-LATS1/2を介してYAPを活性化させる機構を明らかにしました。EGFR阻害薬の耐性を解除するため、AXL阻害薬を併用することが重要であることが示されました。

 EGFR阻害薬とAXL阻害薬の併用、あるいは新たな治療戦略の開発が今後必要とされます。

Readers Choice: The best of Oncogene 2023に選ばれました(2024年1月9日)!

DOI: 10.1038/s41388-023-02810-7

EGFR Regulates the Hippo pathway by promoting the tyrosine phosphorylation of MOB1. Ando T, Arang N, Wang Z, Costea DE, Feng X, Goto Y, Izumi H, Gilardi M, Ando K, Gutkind JS. Communications Biology, 4:1237, 2021.

受容体チロシンキナーゼのEGFRはリガンドEGFと結合することで活性化し、下流シグナル経路を活性化させて増殖を促します。口腔扁平上皮癌では遺伝子増幅・過剰発現し、肺腺癌ではおよそ50%が活性化変異を示します。EGFRとYAP/TAZの関連については詳細が分かっていませんでした。本論文では、EGFRがHippo構成要素の一つである

MOB1の3箇所のチロシン残基のリン酸化を促すことで、LATS1/2の不活性化を引き起こし、YAP/TAZを活性化させてがん細胞の増殖を促す機構を世界で初めて解明しました。

 歴史的に昔からよく知られていたEGFRが、まだ発見されてから歴史的に浅いシグナル経路であるHippo経路を制御していました。この点が今回のシグナル研究としての面白さとインパクトの大きさを象徴しています。

DOI: 10.1038/s42003-021-02744-4